経営者やビジネスパーソンから絶大な人気を誇っている漫画『キングダム』。
中国の春秋戦国時代末期を舞台に、奴隷の身分から大将軍を目指す信と、中華統一を目指す秦王の嬴政(のちの始皇帝)の成長と戦いを描いた物語です。
歴史漫画としても非常に面白く、最初は絵が苦手で敬遠していた私も、読み始めたらハマって一気に全巻読んでしまいました。
作者の原泰久さんが漫画家に転身する前のサラリーマン時代に経験した「組織」の美学を作品に注ぎ込んでいるそうで、企業経営や組織運営に通じるものが多くあります。
スタートアップ企業や事業承継をした中小企業のコンサルティングで、経営理念(ミッション・ビジョン・バリュー)や経営戦略を策定する機会があり、アイスブレーク的にキングダムを事例として紹介してみました。
秦国の経営理念とは(MVV)
キングダムで秦という国を経営する嬴政は「中華を統一する最初の王になる」と言っていました。
その背景にある成し遂げたいこと(≒ミッション)については「人が人を殺さなくてすむ世界」と語られています。
その強い思いと大きなビジョンが王騎将軍を動かし、呂不韋陣営だった昌平君や李斯までも引き入れてしまうのです。
ミッション | 人が人を殺さなくていい世界にする |
ビジョン | 15年で中華を統一する |
バリュー | 法治国家であり、何人も法の下に平等 |
もしこれが「俺が中華の支配者になる」というビジョンであれば誰もついてこないですし、物語としても盛り上がらないですよね。
会社組織も同じで、「ただ社長が儲けたい」だけの会社に優秀な人材は集まってきませんし、高い士気を持って働いてもらうことは難しいでしょう。
そして李斯が昌文君に説いた”法とは願い”という考え方は、会社組織における”バリュー”に近いです。
ミッション、ビジョンを達成するために、組織の人たちにどのような在り方を望むのかということです。
鄴攻めに学ぶ経営戦略
秦国のビジョンである中華統一を目指して軍の最高司令官である昌平君が考案した戦略に、趙の首都・邯鄲を攻略するための鄴攻めがあります。
大国である上に優れた宰相李牧がいる趙は、正攻法だと15年かけても攻略できるかどうかという国です。
しかし趙の攻略に15年もかけていては、嬴政の時代に中華統一を果たすなど夢のまた夢です。
そこで昌平君は”正攻法ではない”戦略を考え出します。
それが”鄴攻め“です。
趙の王都・邯鄲の近くにある鄴を攻めて奪ってしまおうというのです。
もしこの鄴を獲ることができれば趙の攻略が15年→3年と一気に進みます。
この場合趙を滅ぼすには鄴の攻略がKFS(Key Success Factor)だと考えているのですが、そんなことが簡単にできれば苦労しないわけです。(邯鄲だけに)
戦略の定石からは大きく外れているので、当然リスクは非常に高く、失敗したら包囲されて全滅の危機となります。
それでも試行に試行を重ねて一筋の光を見出します。
誰もが「そんなバカな」「無謀だ」「絶対にうまくいかない」と考えるような戦略なので、この狙いに気づいた趙の将軍李牧も意表を突かれ「正気かお前たちは!!」と叫んでいます。
不可能と言われた鄴攻めを、実際どのようにして果たしたのかは読んでのお楽しみです。
ビジネスにおける優れた経営戦略とは
戦略とは、まだ気づいていない自分の強み、相手の弱みを見つけ、相手がこちらより弱いところにこちらの強いところをぶつける。もっとも効果が上がるところに最強の武器を投じることです。『良い戦略悪い戦略』
業界のリーダー企業であれば低リスクの正攻法をしっかりやっていくという戦略を取ることになりますが、大きく成長させていこうとする中小ベンチャーには、一見「バカな」と思われるような奇抜な戦略も必要になります。
短期間で業界地図を塗り替え、高い利益水準を実現するような良い戦略の特徴。
- 顧客価値に基づく視点で設計されている。
- バカなとなるほど:同業他社も思わず「バカな」と言ってしまうような打ち手に、「なるほど」と唸らせる論理性や仕掛けがある。
- 戦略的資源に基づく:特許、評判、取引関係、ネットワーク効果、規模の経済、暗黙知や熟練技術等、会社が長い時間かけて築き上げたり、独自の手法で想像したり発見したりした息の長いリソースであり、他社には簡単にまねできない。
- 外部環境や業界動向など、妥当性の高い予測に基づいている。
- 選択と集中で優先順位がはっきりしている。(これが1番、これが2番)
- 変化に対応できる柔軟性がある(複数の戦略オプションの組み合わせなど)
鄴攻めという戦略もこれらの特徴に当てはまっていると思います。
自分たちのビジネスが大きく伸びるための”鄴”は何になるかを考えてみましょう。
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