私が経営の参考にしているビジネス書の中に『マネーの拳』というマンガがあります。
「ビジネス書なのにマンガ?」
と思われた方もいるかもしれませんが、これがなかなかどうしてとても勉強になるのです。
著者はインベスターZやドラゴン桜を描いた三田紀房さんで、とても経営に学びの多いビジネスマンガです。
『マネーの拳』にはちょうど独立開業を考え出した時に出会い、頭をガツンと殴られたような衝撃が走り、夢中で全巻読み切り、独立開業を決心する後押しをしてくれました。
こんな人におすすめ
経営者が主人公のマンガですが、花岡やその他の登場人物(投資家、従業員、敵対する競合他社など)の考え方や行動は、ビジネスをする上で良い面も悪い面も非常に参考になります。
・起業したいと思ってる人
・社員のマネジメントに苦労している経営者
・なぜ自分がお金を稼げないのか分からない人
・ビジネスの本質を分かりやすく学びたい人
・ベンチャー社長の考えを知りたい人
ビジネスの現場で戦っている人は、自分に引き寄せて考えられること間違いなしです。
マネーの拳のあらすじ
ボクシングで世界王者まで上り詰めた花岡拳(本名:花岡健)は引退後に芸能活動をしながら居酒屋を経営していたが、その居酒屋は赤字続きの上、雇っていた料理長と店長も食えない人間で、オーナー社長である花岡の改善案にも耳を貸しません。
そんな中、テレビ番組での共演がきっかけでビジネスの成功者である塚原為ノ介と出会い、1億円の出資とビジネスのヒントを得ます。
塚原による1億円出資の条件が「ホームレス10人を雇用してビジネスをする」ことだったので、街でホームレスを採用し、そのホームレスの1人が抱えていた縫製工場を買い取ってビジネスをスタートします。
その縫製工場でTシャツを作り、Tシャツ専門店のT-BOXというブランドで店舗展開して上場を果たし、創業者である花岡がT-BOXを去るところまでが全12巻で描かれています。
経営に役立つポイント
これまでたくさんのビジネス書を読んだり、経営大学院に通って一通り経営学を学んだりしてきましたが、どこかキレイ事のお勉強という感じがありました。
それはそれでもちろん役には立つのですが、そこからもう一歩踏み込んで「自分で商売をやる」「儲ける」ということを考える時には物足りなさを感じます。
経営戦略の「バカなとなるほど」
神戸大学大学院経営学研究科の三品和広教授は、著書『経営戦略を問いなおす』の中で、経営戦略について
「バカなとなるほど」
という言葉を紹介されていました。
一見すると「バカな、そんなことがうまくいくはずがない」と思われるビジネスが、よくよく分析してみるとその打ち手には筋が通っていて合理的で、「なるほど」と納得させられるというものです。
花岡が立ち上げたT-BOX社はTシャツしか販売しないという店舗で、最初は「キャップやジーンズなど合わせるものを置いた方がいいんじゃないか?」と言われましたが、「そんなことをしたら普通の店になっちまう」と頑として受け入れませんでした。
Tシャツしか売らないというのは花岡の中で筋の通った合理的な経営戦略だったのです。
経営者の覚悟
花岡健は従業員を信用していません。
大事なことは全部自分で決め、そのことに対して従業員が反対しても頑として聞き入れません。
これは単なるワンマン経営者という事ではなく、そのビジネスについて誰よりも深く考えて自信を持っていて、責任はすべてオーナー経営者である自分が取るという覚悟の表れなのです。
従業員の人間模様
企業が創業から上場という成長ステージを駆け上がっていく中で、その人間模様は相当荒れます。
一癖も二癖もある創業メンバーの裏切り、反乱、強欲、保身、プライドetc…、成功ストーリーの背景にある人間のドロドロとした感情をあますところなく描き切っています。
そんな従業員たちのトップに立つ花岡が、その荒れ模様をどのように考え、乗り切っていくのか、気になりませんか?
人材に対する考え方
「会社を1本の川」に例え、小さなせせらぎで終わるか海にそそぐ大河になるかの違いを語っているシーンがあります。
経営者は絶対に川を枯れさせてはいけないので、どんどん外部から人材を登用して、能力や意欲のある支流を増やす必要があるというのです。
きれいごと無し
マネーの拳には教科書的な経営のフレームワークや、きれいごとのマネジメントがほとんど出てきません。
その分商売の本質、経営者の考え方、成功企業の軌跡、成功の背景にあるドロドロした人間関係etc…を具体的でリアルな、面白みのあるストーリーに仕上げています。
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主人公花岡拳の名言
ストーリーの中で主人公花岡健が発する言葉は、頭をガツンと殴られたような衝撃や、心にグッとくるもの、これは経営で気を付けなければと思わされるもの、たくさんの名言が出てきます。
俺は誰も信用しない。その代わり責任は取る!
幹部の1人が子会社を欲しいと言ってきた時に、
「お前を信用しないからだ」
という理由で断った時のセリフです。
社員や部下を信用していると言って任せるだけ任せ、いざ問題が起こるとなると当該社員のせいにして責任を取らない経営者や上司に比べたら、はっきりとこう言ってくれる上司の方がよっぽど信用できます。
決めるのは俺だ。お前らはただ黙って従ってりゃいいんだ。
まだ1号店が軌道にのっていないのに借金をしてさらに出店を進めようとしていた花岡に対して、幹部の1人が「まず1号店を成功させてから…」と意見したときの回答です。
字面だけ見ると嫌な経営者に見えますね。
しかしこれを言える経営者がどれだけいるでしょうか。
このセリフをただのワンマンと捉えるかどうかですが、これが言えるということはそれだけ自分の考えに自信を持っているということです。
逆風の時こそ視線は外じゃない。内に向けるんだ
数少ない花岡のきれいごとの1つです。
派閥を作ろうとする幹部から従業員の心を引き離すという花岡の打算的な意図があったとはいえ、これは逆風に立たされている企業や人にとって励みになり奮い立たされる言葉です。
自由を差し出したら二度と戻ってこない
会社の危機に塚原会長から追加の出資で助けてもらうかどうかの議論になった時の言葉です。
追加出資を受け入れるということは株式の過半数を持たれて所有権を奪われるということで、経営の自由を手放すということになります。
資金調達を考える際にはこの辺を慎重に考える必要があると学ばされます。
近所で一番、これが商売の鉄則
株主総会で世界戦略について話した時の言葉です。
私のように店舗ビジネスをしている者にとっては肝に銘じておくべき名言です。
とまぁ色々とあるわけですが、もっともっと、本当にたくさん紹介したいシーンはありますし、断片的に名言やシーンを紹介してもこのマンガの良さは10%も伝わりません。
とにかくこれは読んで欲しい!
そう思えるマンガで、読んだ人と会話をするとかなり盛り上がります。